むかし、「ビートたけしのつくり方」という傑作バラエティ番組があった。これはタイトルに違わず、笑いを生み出すための方法論を(単純化したかたちではあるものの)視聴者に提示し、かつそれを実際にやって笑わせてみせる、というたいへん教育的な番組であった。一番印象に残っているのは、プロレスの実況中継で使う単語を全くジャンルの違う単語に置き換えて実況するというコーナーだ。たしか「ラリアット」を「曲げわっぱ(駅弁なんかでよく使われる容器です。イメージが浮かばなかったらググってください)」に置き換えるという回があって、それを見ていた私は古舘伊知郎が「曲げわっぱ」と連呼している状況に我慢できず爆笑してしまい、夕食どきにテレビを見ることに関しては比較的寛容だった我が家の大人たちをさえキレさせた、なんて思い出がある。そういうわけで毎週楽しみにしていたのだが、ある日気がつくと「ビートたけしのつくり方」がはじまるはずの時間に「17才」という内田有紀主演(!)でいかにもボーイミーツガールな感じの唾棄すべき青春ドラマが放映されており愕然としたおぼえがある。なおこのことがトラウマとなり、私は以後一度も内田有紀を好きになることはなかった。


なぜ唐突にこんなことを思い出したのかというと、『作家の読書道』を読んだからだ。


作家の読書道

作家の読書道


まあ作家が読書体験のみからつくられている、とは思わないけれども、「だれそれのつくり方」と呼んでもいいんじゃないか、と思う。「WEB本の雑誌」の連載をまとめた単行本。バックナンバーも全部ウェブ上で読めるんだけど、やっぱパソコンの画面を長時間眺め続けるのはしんどい、というのと、パソコンで見てると興味ある作家の回しか読まないことに気づいたんで買った。藤田宜永クッツェーとか読んでるのか、とか、石田衣良は具体的な書名が少なくねえか、とか、思ったよりモーム読んでる人が多いな、とかいろんな発見がある。
個人的ヒットは次に引用する伊坂幸太郎の文章。

大学時代、『暗闇坂の人喰いの木』が御手洗潔シリーズで久々に出るという情報を雑誌で知り、その月の下旬発売というのに、もう中旬から毎日本屋に通いはじめたんですよ。早めに出るかも、と思って。そうしたら結局一カ月くらい刊行が延びたみたいだったんですが、すでに毎朝丸善に原付で行って新刊コーナーを見るのが日課になっていて。途中からは修行のようでしたね、どうせ今日もないんだろうな、って。しかも、いざ出たら、違う本屋で見つけてしまった(笑)。今はネットなどもっと情報があるので、もうみんな、そういうことはないですよね……。(p19)


あるよ!伊坂、お前は俺かと。「短篇小説の快楽」シリーズなんて「12月刊行予定」の表示がネット上でずっと切り替わらなかったから2カ月待っちまったつうの!というわけで一瞬伊坂幸太郎を抱きしめたくなったが、冷静に考えるとそういう趣味はないので、手近なところで『陽気なギャングが地球を回す』を抱きしめ今夜は眠ろう。と、リトルSMAPな感じで締めます。