別件で書店に行ったら、待ちに待った「短篇小説の快楽」シリーズが出てるのを発見し、即買い。



聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)

聖母の贈り物 (短篇小説の快楽)

ひとまず最初の短編「トリッジ」を読む。


40ページほどの作品で、ごく簡単にいうと、前半が「ズッコケ三人組」で、後半は「ズッコケ中年三人組」だ。寄宿寮で暮らす、(大人たちに言わせると)「見所のある」三人組(ウィルトシャー、メイス=ハミルトン、アロウスミス)の少年が、トリッジという「あきらかに普通じゃないのに、傍から見ていていらいらするくらい、本人だけがそのことに気づいてな」い、ちょっと天然気味の同級生トリッジを観察して笑いのタネにする。そのなかで、ヨーロッパの男子校の寄宿寮といえばアレだよね、といった感じの、『トーマの心臓』的展開が多少あり、ちょっとした謎を残して前半が終わる。

この前半だけでも、多少類型的ではあるもののじゅうぶん面白い。トリッジのいじり方など、ウィリアム・トレヴァーの底意地の悪さを感じさせる。基本的には、登場人物のほとんどがトリッジをジョークのネタにしているのだが、愛されるおめでたいやつ、という感じで、作中人物に悪意はあまりないっぽく書かれている。でも、作者のほうはそうでもないらしく、

トリッジはおもしろいやつ、と誰もが認めていて、こいつの失墜を願うやつなど誰ひとりいなかった。そもそも昇っていないトリッジに失墜などありえなかったのだ。


とか書いちゃってる。最後まで読むともっと面白いんだが、ネタバレになるのでこのへんで。いや、国書刊行会様々という感じで、いい買い物したわー。