「文芸」(後で正字になおす)2009年春号から小池昌代「わたしたちはまだ、その場所を知らない」を読む。再読。発売時に読んですげーいいなと思ったので、後に単行本になったものを買ったが、雑誌掲載時とけっこう違うという話を聞いてなんとなく放置していた。掲載誌が部屋の混沌の中に完全にうずもれてしまい、Amazonとかで買うってのもなあ…みたいな感じだったんだけど、昨日会社帰りに寄った書店でバックナンバーフェアをやっていてこの号を発見したので、勢いで買い、また一気読みしてしまった。
1ページに少なくとも1つは「これはやべえ」というフレーズがあるので、気に入った表現に付箋を貼っていくと全ページ付箋だらけになってしまう。一例を挙げれば、国語教師・坂口とその寵愛を受ける生徒・ミナコが地域の図書館で遭遇し、かぶっている帽子を褒められた坂口が、その帽子をいつかミナコに譲ると言った直後のミナコの思考を描いた部分。「遺品というには、坂口は若すぎる。若すぎるが、坂口の言い方は、わたしがいなくなったら、という響きを持ち、ミナコの耳は、聞こえないはずのその響きを、敏感に聞き取った。」(p.201)などは、センチメンタル過剰になりそうな内容に対して文体が正しくバランスをとって絶妙に気持ちいい。
小池昌代の散文の特徴は、一見いわゆる文学的文章には見えない「正確さ」にあると私は感じるのだが、この点については堀江敏幸あたりの文体と比較して改めて考えてみたいところ。